管理職の研修6

「ベンチャー企業では多数決はとらないってよく言いますが、あれはどうしてなのですか?」と、飲み会である部下が聞いてきた。たしかにベンチャー企業の経営者で多数決を否定する人は少なくない。


「多数決の問題は、民主主義の限界と少し似ているかもしれない。

時々、主張を変えてでも勝ちそうな政党に移動する政治家がいて、マスコミで叩かれたりするよね。
例えば、最初の選挙でダム反対だと主張して当選した政治家が、次の選挙では世論的に票が集まりそうだという理由でダム賛成の政党に移動したとすれば大騒ぎだ。
でも、中には政治家で居続けるために、そういう行動をとる人もいるわけだ。

会社の会議も同じで、毎回多数決でモノを決めていると、事前の議論で“勝つ側(多数側)”が見えてくる。
採用されない側として手を挙げるのが嫌な人や不安な人は、主張を変えてでも採用される“勝つ側(多数側)”でいたがるかもしれない。そういうことだよ」と私は答えた。


「でも大多数が手を挙げる意見なら、それは正しい答えに近いってことじゃないんですか?」と、部下が続ける。


私は過去に思いを馳せながら、次のように回答した。
「主力事業であるスーパーデリバリーは、開始当時の役員会で反対が多数だった。Paidだって、最初はみんな反対さ。もし大事なことを多数決で決めていたら、今日のラクーンは存在していないんだ。
最初みんなが反対していても、正しいと思うなら根気よく説得して、実行すべきものは実行する。
それがリーダーの重要な役割なんだ」


そしてこの会話の後、私は管理職マニュアルに会議に関する記述を加えた。


<会議で勝とうとしてはいけません>

プライドが先行してしまう場合、全体にとって最もいい回答を認めようとせずに「自分の意見が採用される、格好いい結果」を得ようとするリーダーが存在します。
会議中はつい興奮してしまうこともあるかと思いますが、あとで冷静になって考えれば、それがどれほど全体利益を損なうことになるか分かると思います。

客観性を大切にしないと本当の信頼は得られません。
誰でも間違いは犯します。上司といえども、その例外ではないのです。
人間として本当の尊敬を得るには肩書きでプライドを維持するのではなく、『素直に非を認める』『誤りを認める』など、人間としての立派な態度が必要となります。


<会議には万全の準備で臨み、目的を明確にしましょう>

参加する人数と時間に人件費をかけ算すると、大勢の会議にどれほどのコストが使われているかを理解できます。
だから、会議は万全の準備で望み、限られた時間で少しでも高い成果を残せるよう努力しなくてはいけません。

また、会議において最もすべき準備は目的の明確化です。
時間を使い、やる側の自己満足だけを満たすような人は参加者からの支持を失いかねません。
会議の冒頭で必ずその会議の目的を確認してください。

小方 功

Isao Ogata

株式会社ラクーンホールディングス代表取締役社長

1963年札幌生まれ。北海道大学卒業後、パシフィックコンサルタンツ株式会社に入社。
独立準備のために30歳で会社を辞め、1年間中国に留学。
帰国後、家賃3万円のアパートの一室、お金、人脈、経験もないところから100万円でラクーン創業。
大赤字や倒産の危機を何度か切り抜け、02年には主力事業となるメーカーと小売店が利用する卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」をスタート。そして06年にマザーズ上場、16年に東証一部に上場し、22年には東京証券取引所の市場再編により、東証プライム上場に。
現在、ラクーンホールディングスは企業間取引を効率化するためのサービス「スーパーデリバリー」「SD export」「COREC」「Paid」「URIHO」を提供している。

プライベートではまっているのはゴルフ、釣り、ワイン、韓流ドラマ。
株式会社ラクーンホールディングス