ビジネスモデルのチェックポイント

これまでにビジネスモデルの重要性を説明してきた。従業員を過度の残業から解放し、健全な利益を増やし、福利厚生が充実した働きがいのある会社を作るにはビジネスモデルを根本から見直すことがとても重要なのだ。
ラクーンは、創業当時からビジネスモデルをとても重視してきた。現在9種類のサービスを展開しているが、そのほとんどが前例のないビジネスである。

ビジネスモデルに関して、最初に私が基本的な仕組みを作り、副社長の石井がそれを改良するというパターンでやってきた。1つのビジネスを完成させるまでのプロセスはとても大変である。
スーパーデリバリーは石井が改良に改良を重ねて収益構造を強化した。これは気の遠くなるような作業で、先の見えないトンネルをひたすら掘り続けるような仕事に似ていた。もしくは無数に部品の付いた複雑なエンジンを、期待された速度を出せるようになるまでチューニングし続ける作業にも似ている。なんと言っても前例がない以上、参考にするものもないのだ。集客の仕方、ページの作り方など答えは無数に存在する。料金体系、サポートデスク必要の有無など、前例はないのだから想像力豊かに考えてひたすらシミュレーションをするしかない。そんなこんなで石井がこのビジネスモデルを2年掛けて黒字化した。

Paidに関しては、私が言い出したビジネスだが99.9%は石井達が作ったものと言って良いだろう。
さて、このようにビジネスモデルを作る作業を全社のレベルでどんどん下に落としていこうというのが、目下の目標である。そのため全社員が年に2回、「ビジネスモデル勉強会」というものに参加し、新たなビジネスのアイディアを出している。社員は約100名なので、年間に200個。10年続けているので既に2000個のアイディア。ただし、従業員は最初少なかったので半分にして1000個程度ということになるだろうか。そのうち実現しているものが9つということだ。

勉強会では10人程度のランダムなグループを作り、1人3分の発表時間が与えられる。ビジネスモデルで重要なのは「要は誰に何を売るのか?」ということなので、それ以上の時間は必要ない。また、私の経験から「シンプルで分かりやすい」ものでなければ事業はうまく行かないと思っており、その点も重視される。だから説明は3分で十分なのだ。ホワイトボードなどを使ってもいいが、パワーポイントの資料は配付禁止である。3分間の口頭説明で伝わらないものは、営業してもどうせ伝わらない。

さて、前回と前々回で「差別化」と「効率化」(下記チェックポイントの1、2に該当する)について述べてきたが、ビジネスモデルには幾つかのチェックポイントがある。

 1.ニーズの存在、需給バランス
  誰がそれに、どういう理由でお金を払うか?
  市場(ニーズ)は存在するか?
  規模はそれなりに大きいか? 
  儲かりそうな印象があるか?
  行政の仕事と混同していないか?

 2.差別化されているか?
  類似したものは存在していないか?
  簡単に真似されないか?
  我々にそれをやる強みはあるか?
  追従してくるだろう相手に勝てる理由は存在するか?

 3.事業の魅力
  分かりやすいか?
  複雑すぎないか? 
  その事業は話題を形成できるか?
  その仕事をする人は楽しいか?

 4.社会環境
  時代に合っているか?
  対象となる顧客の業界の商習慣に合っているか?

 5.組織論
  我々の強み(コアコンピタンス)を生かせるビジネスかどうか?
  働く人のキャリアプランを形成できる事業内容であるか?
  働く人が何かを学べる要素を持っているか?

 6.イズム
  世に善を為すビジネスか?
  人に害をもたらすものではないか?
  (正義感のある)健全な人間を集める事業であるか?
  それは、友人や家族に自慢できる仕事か?

また、経営理念においては事業領域の設定もなされている。
うちの経営理念は、「企業活動を効率化し便利にする」である。事業領域を設定するのは、「この会社が好きな人が、この会社の将来のためにしておくべき勉強と努力を分かりやすくするため」である。もし、私がなんの脈絡もなくこれまでと関連のない事業を始めたらどうなるだろう。これまでの事業と関連がないのだから、それに詳しい人を外部から新たに採用してこなければいけない。そんなことをいつもやっていたら、この会社の将来に期待する社員自体がいなくなってしまうかもしれない。

従業員を過度の残業から解放し、健全な利益を増やし、福利厚生が充実した働きがいのある会社を作りたいと願うなら、この機にビジネスモデルを根本から見直してみてはどうだろう。

小方 功

Isao Ogata

株式会社ラクーンホールディングス代表取締役社長

1963年札幌生まれ。北海道大学卒業後、パシフィックコンサルタンツ株式会社に入社。
独立準備のために30歳で会社を辞め、1年間中国に留学。
帰国後、家賃3万円のアパートの一室、お金、人脈、経験もないところから100万円でラクーン創業。
大赤字や倒産の危機を何度か切り抜け、02年には主力事業となるメーカーと小売店が利用する卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」をスタート。そして06年にマザーズ上場、16年に東証一部に上場し、22年には東京証券取引所の市場再編により、東証プライム上場に。
現在、ラクーンホールディングスは企業間取引を効率化するためのサービス「スーパーデリバリー」「SD export」「COREC」「Paid」「URIHO」を提供している。

プライベートではまっているのはゴルフ、釣り、ワイン、韓流ドラマ。
株式会社ラクーンホールディングス