差別化の重要性

安売りか差別化か。いつだったか、MBAを習ったとかいう人が言っていた言葉だ。その人は、ビジネスの戦略にはこの2種類しかないというのだ。「なるほど」と思い、強く記憶に残っている。

私の口癖になりつつある言葉だが、「そもそも日本人は、この国が資本主義だということを忘れている」。資本主義経済における勝者は、比較で決まるのだ。どんなにおいしいラーメンを作っても、隣にもっとおいしいラーメン屋があったら儲からないのが資本主義なのだ。言い方を変えると、普通のラーメンであっても近くにラーメン屋がなければ、それはそれなりに売れるということだ。現実はもっと複雑だが、話を分かりやすくするためにシンプルに話すとそうなる。

それにも関わらず闇雲な努力を繰り返し、その努力はいつか報われると信じる人が多すぎる。そもそも隣左右と同じだという時点で“決して成功者にはなれない”ことが決まっているのに、なぜそれに気が付かないのか。

Apple、Google、Facebook、Amazon。みんな完璧に差別化されたビジネスを展開している企業達である。後で似たようなものは出来たかもしれないが、彼らがそれを始めたときに類似したサービスは世界中探してもなかった。日本にここまで差別化された企業があるだろうか?それどころか、日本のITベンチャー、いやITだけでない全ての企業はどこかの他の会社と同じような会社になろうとしている。みんな仲良く、同じ会社になろうとしているのだ。アメリカで何が流行っているかを議論し、誰が最初にそれを真似するかを競い合っている。「誰かと一緒である」「比較できるものが存在する」ということは価格競争をしなくてはいけないということだし、量で戦わなければいけないということなのにも関わらず、だ。

私は、色んなビジネスコンテストの審査員経験があるのだが、日本ではビジネスモデルの重要性を勘違いしている人がとても多い。コンテストに出ているほとんどの人が誰かの何かを真似して会社を興そうとしていて、それを指摘する審査員もほとんどいない。
それどころか、それはいわゆる○○ですね?と、知っている何かに無理矢理例えようとする。もしくは、「比較できるものはありますか?」とか「成功例はあるんですか?」としつこく聞こうとする。まるで、ないとダメと言わんばかりだ。

日本にはオリジナルのビジネスモデルを作っている人が非常に少ない。M&Aで規模的拡大にだけに興味があり、オリジナルの事業はほとんどやっていないという会社もある。上場して大企業になると数字的義務に追いかけられるので、尚のことその傾向は強くなる。まあ、そこは好みの問題なので私がそれをとやかく言う必要はないのだが、そういう人がビジネスコンテストの審査員で呼ばれたときのコメントには、どうも違和感を持つ。

私が考えるビジネスモデルを作る上での重要な点は、「誰に何を売るのか?」っていうことだ。そう、実にシンプルなポイントだ。形のある物であれ、ないものであれ、何かを売るから商売だ。だから、君は誰に何を売ろうとしているんだい?この一点に尽きるのだ。

ビジネスモデルを作るときは「誰に何を売るのか?」をシンプルに分かりやすく考えて収益構造をしっかり作り、「まだ誰もやっていないということ」と「他の人が簡単に参入できないということ」、「マーケットが十分に存在するということ」を確認するのが重要なのである。次の回でもう少し詳しく、ビジネスモデルを作る上で配慮するべき点について書いてみたい。

小方 功

Isao Ogata

株式会社ラクーンホールディングス代表取締役社長

1963年札幌生まれ。北海道大学卒業後、パシフィックコンサルタンツ株式会社に入社。
独立準備のために30歳で会社を辞め、1年間中国に留学。
帰国後、家賃3万円のアパートの一室、お金、人脈、経験もないところから100万円でラクーン創業。
大赤字や倒産の危機を何度か切り抜け、02年には主力事業となるメーカーと小売店が利用する卸・仕入れサイト「スーパーデリバリー」をスタート。そして06年にマザーズ上場、16年に東証一部に上場し、22年には東京証券取引所の市場再編により、東証プライム上場に。
現在、ラクーンホールディングスは企業間取引を効率化するためのサービス「スーパーデリバリー」「SD export」「COREC」「Paid」「URIHO」「家賃債務保証」を提供している。

プライベートではまっているのはゴルフ、釣り、ワイン、韓流ドラマ。
株式会社ラクーンホールディングス